河津桜原木と河津町の桜

河津桜の名木たち

コロナ禍も落ち着いた2023年の2月。嫁さんの希望もあって河津桜を見に行くことに。混雑を想定して前日に下田で一泊、当日早朝に出発した。近くの海では気嵐が発生し、河津川の支流にも霧が立ち込めている。すでに盛りを過ぎた河津桜が霧に和らいだ朝日を纏っていた。

町営の駐車場は便利な場所にあるが8時30分からしか利用できない。そのため事前に調べていた荒倉橋西側の柄足寺第二駐車場に車を停めた。朝6時着で先客が1台。ここは早朝でも駐車でき、帰る頃には集金のアルバイトに料金を払えば良い。見所のエリアからは少し離れているが、道中も多くの桜で彩られていて歩くだけでも心が躍る。何しろ桜を見るのは10か月ぶりなのだから。

この日一番の目当ては河津桜の原木で、朝イチで向かったがまだまだ日が当たっていなかった。ならばと少し離れた大宮瀬の桜に向かう。道中、河津川沿いの桜並木にも陽が回り始め、いよいよ河津町全体が目覚めようとしていた。それにしても河津桜は派手である。オオシマザクラとカンヒザクラの種間雑種と言われるだけあり、花が色濃い。原色の花が咲き乱れるその様はまるで南国にいるかのように感じられる。30分ほど歩き、大宮瀬の桜に到着。河津桜の中でも名木として扱われるだけあり、大きくて形が良い。

桜に近づくと朝露が日差しを受けて霧散していた。立ち上る水蒸気が淡いオレンジの光を拡散しながら桜を柔らかく包み込み、神々しいほどの輝きを放っている。散策の序盤にして、この日最も琴線に触れた光景に立ち会った。

大宮瀬の桜で何十枚もシャッターを切った後、原木へと戻った。往復90分ほど費やした間に太陽はすでに高くのぼり、桜全体を照らしている。たいへん美しい桜だが、すぐ側に所有者の民家が立ち、その上には電線が多く張り巡らされている。人気スポットなので観桜客も多く車もよく通るため、画角は限定される。

河津桜原木はその名の通り、すべての河津桜の始まりの木だが、樹齢はおよそ70年と桜としては若い。しかし幹には治療の痕が痛々しく、数百年生きながらえた古木のように見える。オオシマザクラとの種間雑種といえばソメイヨシノやモリオカシダレなどが挙げられるが、どれも桜の中では短命種である。河津桜もまた同じく短命の運命を持つ種なのかもしれない。そんなことを考えるうちにいよいよ人が増えてきたので次の目的地、かじやの桜へ向かう。

かじやの桜は原木から直接苗木を譲り受けた所有者が自宅の軒先に植えたもので、つまりは原木の子である。かつては最大の河津桜と言われるほど見事な大木だったそうだが、今では樹幹が損なわれ背が低くなっていた。平家の民家の軒先で低く枝を広げる姿はやはり南国を思わせる。

このあと名木と呼ばれる桜をいくつか回ったが、観光客で混み始めたこともあり、気に入った写真は残せなかった。早朝から昼過ぎまでおよそ6時間、2万歩ほど歩き、駐車場へ戻る。車を出すときに渋滞に捕まったが、町から抜け出すのはさほど大変ではなかった。それよりもあの渋滞の中、どこかに車を停めるのはさぞ骨の折れたことだろう。事情が許すなら、やはり早朝に車で訪れるのがおすすめだ。


Note1950年代半ば、家の主人である飯田勝美氏が河原で見つけた苗木を持ち帰ったものとされる。元は飯田家の屋号を取り、「小峰桜」と呼ばれていたが、後に新種と判明し、河津町の名を取り河津桜と名付けられた。オオシマザクラとカンヒザクラの種間雑種と言われ、カンヒザクラ特有の色濃い花を満面に咲かせる。
撮影2023年2月26日
名称河津桜
別称原木:小峰桜
樹種河津桜
所在地静岡県賀茂郡河津町
指定町指定天然記念物
樹齢70年※
樹高10.0m※
根回不祥
幹周1.15m※
枝張不祥
出典※:現地案内板(いずれも原木のデータ)