北舘桜

東北自動車道沿いの桜

この桜はいわゆる「縁のない桜」で、二度訪れていずれも時期と天気が合わず、長らく心のどこかにつかえていた一本だった。過去形なのは三度目の訪問で素晴らしい姿を見ることができたからである。この日の天気予報は晴れ、SCWでも日の出ごろの雲は見られず。前日のロケハンで満開であることを確認し、一関に宿を取るという徹底した臨戦体制で訪問(笑)。夜明け前に現地入りした。東の空は白み始め、西南の空には有明の月が浮かぶ。桜は薄明の光に柔らかく染まっていた。これはこれで妖艶な美しさである。日の出の方角を気にしながら太陽が昇るのを待っていると、突如として桜が赤く染まり始めた。

顔を出したばかりの太陽は瞬時に桜を染め上げた。幾度となく桜のそばで夜明けを迎えたが、このような光景に立ち会ったのは数えるほどしか記憶にない。こんな美しい姿を見せる桜だったのかと驚くほどだ。興奮してシャッターを切る手が震えていたのだろう、この時は久しぶりに手ブレ写真を量産した。こんな場面に出会えるから桜巡りはやめられない。忘れられない朝になった。

北館とは平安時代に前九年の役で滅亡した安倍一族の居館だったと伝えられている。この辺りは北館遺跡と呼ばれ、東北自動車道が通る際には発掘調査も行われた。なお、桜が植えられたのは少なくとも前九年の役から200年以上も後のことである。インターネットで見る限り、以前は北館の桜という表記が多かったが、最近は北舘桜との表記が主流のようだ。奥州市のホームページでもそのように記載されていたので、当サイトでも表記を合わせた。


Note 東北自動車道沿いに立つ樹齢700年のエドヒガン。東北自動車道の下り車線からもその姿が確認できる。このあたりは平安時代の豪族安倍一族の居館があったと伝えられ、北館(きただて)の名の由来となっている。東北自動車道建設の折に発掘調査が行われ、遺跡からは縄文時代の土器が大量に出土したことから、古くより居住に適した地域であったことが分かる。桜は1300年頃、旅の僧南蘇坊が植えたと伝えられる。
撮影 2025年4月17日
名称 北館桜
別称 なし
樹種 エドヒガン
所在地 岩手県奥州市衣川区横道下
指定 市指定天然記念物
樹齢 700年
樹高 19.0m
根回 7.2m
幹周 不祥
枝張 不祥
出典 岩手県公式サイト