前原の一本桜

牧場の桜

この年は福岡出張の日程の関係から、熊本の桜に照準を合わせていた。しかし思ったよりも桜前線の足は早く、一番の目当ての一心行の大桜は見頃過ぎ。ならばと前原の一本桜に目的地を変える。博多で仕事を終えた後車を借り、宿で短い睡眠をとってから深夜のうちに熊本へ向かう。博多から阿蘇までは高速を使って2時間ほど、まだ暗いうちに現地に着いた。さすがに山懐の牧場地だけあり真っ暗である。星空をバックにした一本桜の写真をよく見かけるが、なるほどロケーションは抜群だ。車をとめ、日が上るまで仮眠をとった。

空が白み始めた頃外に出て桜を見る。なんと、花は疎らである。見頃を外したかと思ったがどうもそうではないようだ。ハズレ年かとも思ったが、よく見ると左半分の多くの枝はほぼ芽がついていない。樹が病んでいるのだ。残念だが仕方がない。気を取り直してシャッターを切る。あたりに写真家が増えた頃、日が登り始めた。山裾に沈滞していた霧が俄かに動き出し、こちらへと迫ってくる。

霧は波のように押し寄せ、山も木々もみな飲み込まれていく。無害だと分かっていても眼前に迫り来る霧に恐ろしさすら感じる。初めての経験だった。桜もまたその輪郭を滲ませ、もはや桜とわからないほどである。朝日は柔らかく霧に拡散され、風景を淡いオレンジ色に染めている。風景写真としてはこれはこれでありだろう。


Note小国町の前原牧場に立つヤマザクラ。前原と書いて「むけんはる」と読む。ロケーションの良さから多くの写真家が集まる人気の桜だったが、近年は損傷が激しく花付きが少なくなってきている。
撮影2016年4月9日
名称前原の一本桜
別称牛神桜
樹種ヤマザクラ
所在地熊本県阿蘇郡小国町大字下城
指定なし
樹齢不祥
樹高不祥
根回不詳
幹周不祥
枝張不詳
出典なし