月光桜

月満ちて花満ちる

森林率日本一を誇る高知県は、巨木・名木の宝庫でもあるが、桜の名木は意外と少ない。仁淀川町のひょうたん桜は全国区の知名度と言えるが、それに準ずる桜といえばこの月光桜だろう。ライトアップが有名な桜だが、月光桜というからには月明かりの下で見てみたい。ということで、仕事を終えてから直行し、深夜2時ごろに現地入りした。

桜のある大月町は高知県の最西部にある。流石に遠い。そして、周囲にはネオンなどあるはずもなく、小さな街灯がほのかに夜道を照らすのみである。月齢は19.7、暗闇を煌々と照らす月明かりは思いの外明るい。まだ代掻きも住んでいない田んぼには気の早いカエルたちが合唱している。目当ての桜はといえば目を凝らせばようやくそれと認識できるが、月明かりが強く完全に逆光である。マニュアルで試行錯誤しながらピントを合わせ、撮影する。空は明るく映るが月明かりに輝く桜はやはり神秘的である。

月光桜は植物学者の牧野富太郎博士が研究していた「アシズリザクラ」だとされている。アシズリザクラは白く大きな花が特徴のヤマザクラの変種で、牧野博士が新種として登録しようとしていたという(申請中に博士が没したため立ち消え)。「白く大きな花」というわずかな手がかりだけをもとに地元有志が探索し、同じ特徴を持つ3本の桜が見つかった。そのうちの一本がこの月光桜である(この話はNHK高知放送局の記事に詳しい)。満月に満開を迎えるという言い伝えは自治体の宣伝目的だろうが、なかなかキャラクターが立っている。

桜は小高い山の北側に立っており、駐車場側から見ると日中は逆光となる。夕方の方が光の周りがいいだろうがライトアップの時期は車両通行止めとなり少し煩わしい。形は良く立派な桜だが、毎年ライトアップで桜をガンガン照らすのは桜を衰弱させないか心配ではある。


Note大月町弘見地区に立つヤマザクラの変種。白く大きな花が特徴で、満月に満開を迎えるという言い伝えを持つ。植物学者の牧野富太郎博士が研究していたヤマザクラの変種「アシズリザクラ」の一つとされている。
撮影2024年3月30日
名称月光桜
別称なし
樹種ヤマザクラ
所在地高知県幡多郡大月町弘見4852
指定なし
樹齢170年~180年
樹高13.4m
根回不祥
幹周3.55m
枝張不祥
出典四万十かいどう推進協議会大月支部サイト